ラストサムライと新渡戸稲造

先月号のコラムで聖徳太子の政策の根底にある考えが、
今も日本人に根ざしているのではないかという話を書きました。

今月はさらに新渡戸稲造について書いてみたいと思います。
生徒達に「5000円札の肖像画は誰ですか?」
と聞いたら、いったい何人の生徒が
「新渡戸稲造」と答えられるでしょうか?
そうです。5000円札の肖像画は新渡戸稲造なんです。
そして、中学校で学習する歴史で新渡戸稲造は登場しません。
そこで簡単に業績の紹介をしたいと思います。
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1862年  盛岡市に生まれる
1873年 東京外国語学校に入学
1877年 札幌農学校に第二期生として入学
1881年 札幌農学校卒業,開拓使御用掛勧業課勤務となる。
1883年 東京大学選科生となる。
     面接試験のとき「太平洋の架け橋となりたい」と答える
1884年 東京大学退校。アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学入学
1887年 ドイツのボン大学にて農政,農業経済学を勉強する
1891年 札幌農学校教授となる
1900年 病気療養のため渡米中に「BUSHIDO THE SOUL OF JAPAN」を執筆,アメリカで出版
1901年 台湾でサトウキビ栽培の指導にあたる
1918年 東京女子大学学長となる
1920年 第一次世界大戦後にできた国際連盟事務次長に就任
1932年 満州事変における日本の立場を説明するため渡米
1933年 太平洋会議に出席し,その後病状が悪化,
カナダ滞在中に客死。日本が国際連盟を脱退。
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※札幌農学校は中学校の教科書に登場します。

現在の紙幣は、10000円札に福沢諭吉、
5000円札に新渡戸稲造、1000円札に夏目漱石となっています。
そして、この三氏はそれぞれ日本の明治という大変革期を生き、
日本が独立自尊の近代国家としての歩みを始めた
激動の時代を見つめた人たちで、それぞれの専門分野で
当時の日本をリードした人たちです。

私は夏目漱石を文学者として紹介するときに、
必ず正岡子規と生涯の親友であったことを伝えます。
新渡戸稲造も、夏目漱石も、正岡子規も3人とも
東京大学で学んでいます。

正岡子規の地元の友人で秋山真之という軍人がいますが、
この軍人は正岡子規と東大予備門で共に学んだ仲です。
秋山は東大という役人を養成する学校にいては、
自分たちの利益しか考えずに日本のために働けないと考え、
海軍士官学校へ入学し、後に日露戦争の参謀になります。
日本海海戦では東郷平八郎のもとで手腕を発揮します。

秋山に続き、正岡子規も東大→役人コースを離脱。
日本よりはるかにすすんだ西洋文明に対して、
「俳句こそが日本人の心」と、結核にかかりながら、
日本に俳句文学を確立しようと高浜虚子などのすばらしい
後輩を育てています。幸田露伴とも懇意にしていたそうです。

新渡戸氏は女子教育に力を入れたり、
国富の基礎である農業事業に力を入れ、
また、世界平和のために日本を代表して国際連盟に貢献します。
混沌の時代の中で日本という国の行く末を案じ、
日本人を引っぱってきたすばらしい人材が
明治期にはたくさんいます。

新渡戸氏が「武士道」を執筆しようと考えたのは、
ベルギーの学者の質問に触発されたからだと、
その著書「武士道」の第一版序の部分で書いています。
「宗教教育なしでどうやって日本では道徳教育をしているのか」
という質問に対して、氏は「武士道をもって説明が可能」
と考えたそうです。

新渡戸氏と並び、福沢諭吉、西郷隆盛も、
西洋文明が日本に入ってくることで、
西洋的合理主義によって日本人の精神までも失われていくことを
危惧し、正義、誠意、人徳などを重んじる武士道をもって
日本の発展を目指すことを訴えています。

福沢諭吉は大阪の緒方洪庵の適塾で学び、
後に塾頭にまでなっております。
また、慶應義塾大学を設立し、日本のみならず、
韓国で革命を起こそうとして暗殺された金玉均なども
門下生に抱えていました。

ラストサムライのトム・クルーズもエドワード・ズィックも、
この混沌の時代の中で、生きた男達の生き様に感銘を
受け、新渡戸氏の「武士道」を手に取ったようです。
日本という国はこんなにも美しい国だったのか。
日本人はこれほどまでに誇り高く、切なく、真っ直ぐだったのか。
そして、その精神にハリウッドが切り込んだという点で、
別の意味の感動を私は覚えます。

さすがに今の時代に「武士道」を復興させようとは
誰も思いませんが、最近の国際情勢を見ていると、
当時には誇るべきところも、学ぶべき物も多いなぁと思います。
そして、「教育」というものがいかに重要であるのか、
改めて考えさせられます。

これからの日本を背負って行くであろう今の子どもたちに、
歴史(社会)や文学(国語)を通して、
たくさんのことを学んでもらえるように、
教材の研究を進めていきたいと思います。
参考資料:http://www2.city.morioka.iwate.jp/14kyoiku/senjin/senjin/senjin_top2.htm

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