自分で自分の将来を決定する機会
学習塾にとって2月からゴールデンウィークまでは
とてつもない忙しさになります。
農家の1年間の仕事の中でたとえて言うなら、
田植えと稲刈りを同時にしているような形になります。
田植えとは、新しい学年を迎えるにあたり、
生徒を募集することであり、
稲刈りとは、今まで教えてきた3年生に
「合格」を勝ち取らせることになります。
ドラスチックに変わってきている高校受験に
翻弄されることなく、しっかりと自分の目標を定め、
行きたい学校を受験するために最後の追い込みをかける
生徒の姿を見ていると、この受験という経験が
将来のこの子たちの生きる姿勢に大きな影響を
与えてくれるだろうと思います。
数年前にこんなことがありました。
中3の夏にクラブが終わってからAさんという生徒が
塾に入ってきました。
この生徒、もともと勉強があまり好きではなく、
勉強すること自体には前向きではありませんでした。
ただ、楽しいから塾に来て時間を潰すという感じでした。
そんな通い方なので、時々宿題を忘れたり、
小テストで不合格になったりします。
私は容赦なくその生徒を残したりしながら、
「そんな姿勢で勉強しても成績は伸びない」と言い続けます。
合宿勉強会や集中講義などで環境が変われば
やる気になったり、それを機会に勉強に一生懸命に
なる生徒も中にはいるのですが、
その生徒は、とにかく「今」が楽しければそれでいい。
という感じで、気分によっては、
すぐに「やる気」にはなるのですが、
なかなか「本気」にはなれませんでした。
そんなことが続きながら、年末に受験する私立高校を決め、
2月の私立受験直前を迎えました。
年が明けると学校では、昼休みなどでも生徒たちは
赤本を広げて問題に目を通したりし始めます。
それまでのガヤガヤした昼休みはもうありません。
Aさんは、直前になってだんだん不安になってきました。
一生懸命にやった経験がないので、
本当に合格するかどうかわからなくなってきたのです。
焦って勉強し始めるのですが、わからない問題ばかりが
どんどん目につきます。そして、とうとう受験前日に
塾で泣き出してしまいました。
「先生、どうしよ~。ウチ落ちてしまう。。。」
とにかく、元気を出してもらえるように励まし、
帰って出来る範囲で精一杯勉強するように勧めました。
当日、受験校が遠いAさんはいつもよりも
1時間早く起きました。お母さんはそれより早く起きて
お弁当を作っていました。
「頑張ってきな!」と言うお母さんに小さい声で、
「行ってきます」と言い、一人で受験校に向かいました。
テストを受けながらAさんは不安になるばかりです。
自分が書いている答えがあっているかどうかわかりません。
そして昼食の時間にお弁当のふたを開けて、
Aさんは涙が止まらなかったそうです。
自分が一生懸命にしてこなかったことを振り返りながら、
それでも文句一つ言わずに塾に通わせ続けてくれた母親。
その母親が自分より早く起きて作ってくれた弁当に感激し、
この日のことを思って口うるさく言っていた
塾の先生に申し訳なく思ったそうです。
テストは無事合格し、私立が終わってからは、
公立に向けてかなり真剣に勉強をしていました。
遅いスパートでしたが、すべるかもしれないと言われていた
公立高校も無事合格しました。
高校受験は、その生徒の人生の中で、
初めて自分の実力で自分の将来を選択する機会です。
それを積極的に乗り越えた生徒と、そうでない生徒とは、
その後の勉強に対する姿勢は大きく異なります。
ちなみにAさんは、高校ではしっかりと大学を見据えて
勉強し、現役で公立大学に合格しました。
何がきっかけで「本気」のスイッチが入るかは、
その生徒次第なのですが、我々はそのスイッチを
見つけやすい環境を提供していきたいと思います。